Online Offline Webinar vol.1 〜デジタルクリエイターの生存戦略〜

【クリエイティブにおけるオンラインとオフラインの垣根をなくす】をコンセプトとしたOnline Offline Webinar。vol.1の今回は、クリエイティブの専門家とマーケティングの専門家をお招きし、「デジタルクリエイターの生存戦略」というテーマで開催されました。

《登壇者紹介》

武田英志さん
株式会社フープ代表 アートディレクター

東京都出身。武蔵野美術大学卒業。株式会社アレフ・ゼロ(現株式会社コンセント)を経て2002年に独立。2013年株式会社フープ設立。広告、CI、雑誌、企業・官公庁のパンフレット、教科書、書籍などのアートディレクション、デザインを手掛ける。固いものから柔らかいものまで、感覚的なデザインと論理的なデザインをミックスして、「伝わるデザイン」を実践している。2020年11月にデザイン入門書「伝わるデザインの授業」(翔泳社)を出版。台湾版、中国版も発刊予定。

甲斐博一さん
株式会社日本HP 経営企画本部 マーケティング推進部部長

大型IT機器の営業職を経験したのち、約20年IT業界にてマーケティングに従事しながらB2C、BBともに幅広くビジネスを経験。ECビジネスの立ち上げにも携わり従来のマーケティングに加えデジタルマーケティングの特長も活かし独自のマーケティング施策を数々実施。各キャンペーンでは統合型設計に加え、クリエイティブディレクションにも携わる。現在は、経営企画本部にて全社視点からマーケティングを切り口に事業部別のDXを計画、実装していく役割を担う。

根岸泰之さん
ランサーズ株式会社 チーフエバンジェリスト(CEvO)

放浪の旅の途中からフリーランスとしてキャリアをスタート。2003年、人材系企業(東証一部上場)にて制作支社長・プロモーション本部長を歴任。

2003年、ランサーズに転職。取締役CMOなどを経て現在、新しい働き方・新しい組織の在り方を啓蒙するエバンジェリストとして活動中。趣味嗜好は、旅、サッカー、スケボー、珈琲、映画。

《ナビゲーター》

シモカタセイジ
新しい働き方LAB和歌山キャンパスコミュニティマネージャー。

アパレル→インテリア→事業立ち上げの請負人という職業人キャリアを経て、ブランディングとデザインを中心にクライアントの魅力を引き出すフリーランスとして活躍中。とにかく話を聞くこと、その上でクライアントに寄り添った提案をすること、その提案は相手の期待を上回ることを常に心がけている。

これからの「クリエィティブ×マーケティング」

「クリエイティブ×マーケティング」といわれても、なかなかイメージが湧きづらいと思います。
そこでまず甲斐さんに、マーケティングの視点から解説して頂きました。

これまでのマーケティングは、企業からの一方的なものでした。

クリエイターが企業のマーケティングメッセージをエンドユーザーへ発信し、エンドユーザーはそのメッセージをただ受け取るだけだったのです。

しかし時代が変わり、誰でもソーシャルメディアを通じて情報を拡散し、自己実現する時代となりました。つまり企業主導ではなく、お客様が自己実現のために商品・サービスを活用する【共創】の時代が到来したのです。

甲斐さん
甲斐さん

お客様との【共創】の中で、クリエイターのありかたも変わってきています。これからのマーケティングは【点】ではなく、時間や場所に捉われない【線】で繋いでいく必要があるのではないかと考えています。

ナビゲーター
ナビゲーター

ランサーズでもこうした時代に合わせた変化は見られますか?

根岸
根岸さん

目に見えるところで大きな変化はないですけど、もともと直接依頼を受けたり、単価を上げたりしているランサーさんって基本的に指示通りにやっていないんです。クライアントと一緒に課題解決を目指して、自分の意見を発信している。そういうところに、甲斐さんのおっしゃる”共創”の形をみることができると思います。

武田さん
武田さん

うちもふだんは印刷メディアが中心なのですが、最近は「ネットと連動してなにかしましょう」という依頼がくることもあるし、当初はチラシで作成する方向で進行していたものが話しているうちに「DMのほうが良いんじゃないか?」と別の形になることもあります。結局、クリエイターにとって一番大切なことは、エンドユーザーをどう動かすかなんです。

エンドユーザーが一番大切。

しかし自社の顧客のことを理解できていないクライアントも少なくないそうです。「どんな方をターゲットにしているんですか?」という質問に答えられない。きっとこんな人がいたら買ってくれるだろうと、都合の良いお客様をつくりあげてしまっているケースもあるといいます。

お客様の心を動かすことがクリエイターの役割だとすると、お客様のことを知るための時間を設けることが重要になってきます。

なぜその商品をつくるのかをクライアントに問いかけ、どんなユーザーがいるのかを徹底的に調査する。できるだけ多く本質が見られる仕事をすると、クライアントとの信頼を築くことができる、とみなさん口を揃えておっしゃっていました。

クリエイターがマーケティングの技術を身につけるには

ナビゲーター
ナビゲーター

クリエイターがマーケティングの技術を身につけるのにオススメの方法ってありますか?

根岸
根岸さん

自問自答でもクライアントへの質問でも良いので、「なぜを5回聞く」という方法をオススメします。僕が考えた方法ではないので興味のある方は、「トヨタ・なぜなぜ・5回」で調べてみてください。

5回でなくても良いんですけど、疑問を繰り返していくと、最終的にループに入るタイミングがあるんですよ。その頃には理解が深まっていて、具体的に解決すべき課題も見えている。エンドユーザーのために解決すべき課題が見えるようになったら、結果的にマーケティングできているということになると思います。

ナビゲーター
ナビゲーター

マーケティングの専門家として、デザイナーはマーケティングを学んだほうがいいと思いますか?

甲斐さん
甲斐さん

クリエイターにマーケティングセンスが必要だとはまったく思わないのですが、ひとつオススメの本をあげるなら、『100円のコーラを1000円で売る方法』(永井孝尚著・中経出版)ですかね。この本を読んでみて興味が持てるかどうかだと思います。面白そうだと思ったなら、理論を学んでみるのもありかと。

ナビゲーター
ナビゲーター

ちなみに武田さんはマーケティングの勉強しました?

武田さん
武田さん

僕はデザイナーであると同時に、デザイン事務所の経営者でもあるのでマーケティングを学びました。しかしデザイナーの視点でいうと、最初からあまりマーケティングに支配されないほうがいいと思います。独特の発想の芽がつまれてしまうのはもったいない。チャレンジャブルなアイディアを出していって、それをどうマネタイズするかは本職のマーケティングの方につめてもらう。最初から失敗しないように、って考えて動くのはよくないと思いますね。

オンラインとオフラインの対比

ナビゲーター
ナビゲーター

これまでだったら直接会って意見交換できていたのが、最近はしづらくなってますよね。今、困ってることってありますか?

武田さん
武田さん

クライアント対応はもう慣れてきましたね。逆に社内だと、画面を後ろから覗いて指示を出したりということができなくなりました。今は画面共有で対応してますけど、ちょっと覗いて指示を……というのができないのはもどかしいです。

ナビゲーター
ナビゲーター

たしかに画面共有は見せる意思がないとできないですもんね。オフィスがなくなったことで偶然と雑談がなくなったともいわれていますし。

武田さん
武田さん

うちは、音声はずっとディスコードで繋ぎっぱなしなので、雑談はしたければできるんですけどね。それでも後ろから画面を見ることはできない。

ナビゲーター
ナビゲーター

ディスコードでずっと繋いでいるってどんな感じなんですか?楽しそうな反面、いつも監視されている感じがして不安だったりするのかなとも思うのですが。

武田さん
武田さん

いや、話したい時に話しかけられるように繋いでいるだけで、音声チャットにいるかどうかで仕事の管理はしてないですよ。気軽に抜けて良いことにもしてますしね。だから実際、席を外してて話しかけても反応ないというときもあります。そういう場合はちょっと時間をおいてから話しかけるようにしてます。

ナビゲーター
ナビゲーター

甲斐さんは現在、オフィスが完全にない状態ということですが、リモートワークをしていてどうですか?

甲斐さん
甲斐さん

あらためてテキストコミュニケーションが重要になってきているなと感じています。絵文字も含めてテキストによる表現力、伝える力が必要だなと。

ナビゲーター
ナビゲーター

「新しい働き方LAB」もほとんど会ったことない人で構成されていますけど、根岸さんは、コミュニティ内のテキストコミュニケーションはうまくいってると思いますか?

根岸
根岸さん

うまいなと思うのは、実際のその人のキャラと合ってなくても、意図してテンポが上がるような絵文字や記号を織り交ぜてメッセージを送っている人ですね。メッセージを送る相手やグループの空気感などを察して発信される方はすごいと思います。

甲斐さん
甲斐さん

リモート前提になることで、それにあわせて進化していくものだと思うんですよ。新しい時代ならではのチームビルディングのやり方がある。だから前の時代との比較は意味がないんですよね。足りないものはあるかもしれないけど、この制約の中でどうしていくか、できることの中で楽しんでいくほうがいい。

ナビゲーター
ナビゲーター

足りないものというと、現状オンラインとオフラインの違いというか、再現できない、難しいことってありますかね?

根岸
根岸さん

今のところ実現方法がわからないなって思うのが、触ること、嗅ぐこと、食べることですかね。グルメリポートみたいなのはできるかもしれないけど。

甲斐さん
甲斐さん

その足りないところの実現方法を探るのが、実はクリエイターの腕の見せ所なんじゃないかと思ってます。以前、マーケティング系のオンラインイベントに登壇したとき、「アフタヌーンティセットを食べながら参加してください」といわれ、実際に開催時アフタヌーンティを食べながらトークしたことがあります。3日くらい前にお知らせがきて、わくわくしましたね。
これもマーケティングが開催当日の”点”じゃなくて、開催前から時間軸が広がって”線”になってるといえるんじゃないかと。オフラインでの体験とは違うかもしれませんが、ヒントはつまっている。そこを設計できるかどうかなんじゃないですかね。

根岸
根岸さん

冒頭の”共創”にも繋がってきますよね。企業がマーケティングとして発信するだけじゃなくて、参加者が体験を語って口コミで広める。

甲斐さん
甲斐さん

まさに今こうして、イベントの経験を皆さんにお伝えしていますしね。

根岸
根岸さん

今日の参加者もこれからデジタルクリエイターとしてどうしたらいいんだろう?という思いで参加されてると思いますが、あくまでクリエイティブは表現手段です。お客様に届けることを目的としたとき、オンラインオフラインは対比ではなくなる。そういう視点でクリエイティブを考えてみると、持ってる引き出しが広がっていきます。そして顧客の課題解決の引き出しをたくさんもってるクリエイターの価値は、今後より高まっていくと思いますよ。

実例を交えながらお話しいただいたことで、現状の課題はなにか?どうすれば課題を解決できるか?という本質をつきつめていくことが「クリエイティブ×マーケティング」であり、デジタルクリエイターにいま求められていることなのだとよくわかる講演となりました。

《ライター:はづきへちま》

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