ごまかすのではない。「かわいい」から広がっていく人同士のつながり

2021年10月21日

フリーランスの方はもちろん、副業などの新しい働き方に関心のある会社員の方も個人同士でつながり、成長しあえる共創コミュニティである「新しい働き方LAB」。この「新しい働き方LAB」が、今年初めて、テーマを「you+」として、「CreativeLAB EXPO 2021」(クリラボEXPO 2021)を10月2日に、オンライン上で開催しました。人が変わるときには、色々な「+」があります。今回のイベントは、参加する一人一人が、自分の「+」が見つかるように開催されました。

そのイベントの中で、「子どもの福祉グッズから学ぼう!ユニバーサルなデザイン思考」をテーマに、各グッズのデザインの背景も絡めて、さまざまな子どもの福祉グッズが紹介されました。

ナビゲーターは、一般社団法人チャーミングケア(https://charmingcare.org/)・代表理事の石嶋瑞穂さん。そして、クリエイターゲストとして、パーキーパット・デザインズ(https://perkypat.jp/)・代表の前田慎也さんをお迎えし、デザインの観点から、子ども用の福祉グッズについて、話が進みました。

チャーミングケアって何?

まずは、石嶋さんから、一般社団法人チャーミングケアの立ち上げについて紹介がありました。チャーミングケアというのは、「病気や障害の子どもが、前向きに生活できるようにおしゃれを楽しむこと」を言います。これは、石嶋さんが創作した言葉です。

立ち上げを考えるようになったきっかけは、石嶋さんの子どもが小児がんを患い、その治療を始めたことです。小児がんの治療を始めると、髪が抜けたり、顔がむくんだりという外見的症状が現れます。多くの場合、抗がん剤治療を行う子供たちにはCVカテーテルという医療機器を体に埋め込む必要性があるそうです。外見的症状が出るほどきつい薬なので、漏れ出してしまうと大変なので、首のあたりにある中腎静脈という太い血管に直接薬が投与できるようにするためだそう。

石嶋さんのお子さんも、CVカテーテルを挿入する手術を受けることになったのですが、その際にルートが体外に出ているので子供が引っ張ってしまったり触ってしまって感染を起こしてしまうので、ルートを収納できるカバーを作ってくださいと医療従事者から言われたそう。その際に看護師さんからは「カテーテルを保護するカバーはどこにも売っておらず、各自の手作りです」と案内されたそうです。

大人の場合、アピアランスケアとして、大人のがん患者などを対象に治療によって変化した外見を、ウィッグやメイクでケアすることが浸透しています。一方で子どもは、大人に比べてそもそもの人数が少ないこともあって、需要も少なく、情報が整備されていません。また、支援者も多くはないようです。

24時間看病している親御さんにとって、手作りでものを作るのは、大変なことです。そこで石嶋さんは、事情を知る友人に頼みました。するとその友人は、ブランドのハンカチを使って、おしゃれなカテーテルカバーを作ってくれたそうです。プレゼントされた石嶋さんの子どもは、喜んで看護師さんに自慢しに行ったそうです。

子どもの喜ぶ姿とともに、他の方々も同様に困っているのではないかと考え、石嶋さんはマーケティングも兼ねて、ひとまずワンコンインで制作キットとして販売をしました。すると、1か月で完売してしまったそうです。そこから石嶋さんは小児がん専門のケアグッズとお見舞い品のECサイトを自作し、その延長として今の一般社団法人チャーミングケアを立ち上げることになります。

現在は、立ち上げ・運営から約1年経つことから、困りごとの傾向もわかってきたようで、機能性とデザイン性を備えたセット品も販売できるようになっているそうです。

ちなみに、石嶋さんが紹介したカテーテルカバーは、当時は全く流通しておらず最初は制作キットとして販売していたものを現在では、ユニバーサルデザインの視点をふまえ健常者の子どもでもランドセルのキーホルダーにも使えるようになっています。このことは「健常者の子どもにも、小児がんの治療などでカテーテルを入れている子どもいる」というがん教育の資材としてや、おうちで待っているきょうだいさんへのプレゼントとしても使えるように工夫されています。

思い出までも彩る「メリーケアテープ」

次に、医療用テープにかわいいプリントを施した「メリーケアテープ」を手がけている、Merry Care Shop(メリーケアショップ)の松下由希子さんが紹介されました。「メリーケアテープ」は、子どもの体につながっている点滴の管やチューブが垂れないように貼る医療用テープに、かわいらしいデザインのものがプリントされたテープのことです。

このテープは、松下さんご自身の子どもの経験から生まれたものです。栄養を通すための管が体につなぐにあたり、外から見えるところに、垂れ下がらないよう医療用テープが貼り付けられます。こうした医療用テープは、機能性としては優れたものなのですが、ほぼ無地のものばかりだそうです。そのテープがかわいくプリントされたシールであれば、一緒に子どもと写真を撮った時にかわいく子どもの姿が残ります。

季節に合わせて、梅雨の時であれば雨をイメージしたイラストにしたり、今であればハロウイン仕様のテープもあります。現在はさまざまなサイズのものが展開されていて、医療用としてだけでなくデザインがかわいいことから、いろいろな方が購入されていくようです。

どなたでもオシャレになることのできる「Tippetのスタイ」

続いて、舞台衣装などの制作経験もある、Tippet(ティペット)(https://tippet.thebase.in/)の赤石智子さんが紹介されました。赤石さんが手がけているのは「スタイ」です。スタイは、よだれかけのことを言います。赤石さんがスタイを作るきっかけは、ご自身の子どもが知的障害で、体が早く大きくなる体質を持っていたためです。従来のよだれかけでは、体に合わず、よだれの量も大変だったようです。

そこで、かわいらしく、かつ機能的にも優れているものを手作りしました。今回のイベントで紹介されたスタイは、どれもデザイン性に優れているものばかりです。かわいいだけでなく、美しいという言葉が合うようなものまであります。中には、よだれかけ目的で購入されるのではなく、オシャレの一品として購入される方もいるぐらいです。

もちろん、かわいいだけではなく、水分を吸収しやすく「しみない」「臭わない」「汚れない」といった素材で作られていたり、花びらやリボンなどをイメージしたデザインを上手に機能的に活用できるように工夫されています。

目の不自由な方を助けるスーパーグッズ「みずいろクリップ」

最後に、紹介されたのは、株式会社Raise the Flag.(レイズ・ザ・フラッグ)(https://rtf.co.jp/)の中村猛さんです。視覚障害者用の方への製品を手がけている。その中で、今回のイベントで取り上げられたのが、「みずいろクリップ」です。

目の不自由な方は、温かい飲み物を飲むときやカップ麺を作るときなど、どこまでお湯が入っているのか、わかりにくく、やけどをしてしまうことが多くあるようです。また、色の判別も大変苦労するとのことで、例として、マヨネーズとケチャップの判別に困ることがあるようです。子どもの場合では、テスト問題で、何のイラストかを聞くような問題で、りんごなのか、梨なのか、判別できないこともあるようです。

この両面を助けるのが、「みずいろクリップ」です。完全防水にも関わらず、水を感知できるセンサーを備えているため、コップなどにクリップで取り付けることで、ある一定量に達すると音声で教えてくれます。また、センサーの反対側には色を識別できるセンサーが装備されており、確認したいものに当てて操作することで、音声で教えてくれるようになっています。

ユニバーサルデザインとは、人をつなぐ架け橋

今回の3人の方の福祉グッズの紹介を受け、クリエイターゲストの前田さんは、大変感動されていました。紹介されるたびに「これは、かわいい」という言葉が頻繁に飛び出していました。そんな前田さんが今回のイベントを通して「”障害をごまかす”のではなくて、障害者も健常者も、”みんな一緒”であることを再認識することができるし、今回紹介された商品は、障害者と健常者の境目や垣根をなくしてくれるようなものばかり」とお話されていました。

今回、石嶋さんも前田さんも「見た目をはじめとしたデザインは、とても大きな力を持っている」と仰っていました。

子どもは、意外に色々見ています。傷口に絆創膏を貼るにしても、医療用のものか、ヒーローがプリントされたものでは、テンションが変わってきます。

重度の病気をお持ちの子どもを看病するとなると、どうしても親御さんにもストレスがかかってきます。そこで、デザインがかわいらしい福祉グッズがあれば子どもは喜び、その子どもを見て親御さんも少しほっとしたりすることになります。

「ちょっと色を入れたり、形状を変えてみたりして、かわいくしてみる」という、細かなデザインが、やがては、障害者用グッズの枠を飛び越えて、健常者の方にも使えるものになり、いつの間にか、障害者と健常者をつなぐ架け橋になることを教えてくれるイベントでした。

《ライター:松崎邦彦 》
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