「家族との時間を大切にしたい」フリーランスが幸せに働くために必要なことを、エンジニア姫野さんに聞いてみた

もともと、福岡のソフトウェア会社に就職をしていた姫野さん。ある出来事から組織で働くことに限界を感じ、フリーランスになることを決意します。当初、知り合い経由で仕事を受注し順調に売上を伸ばしたものの、仕事が忙しくなり、家族との時間を大切にするライフスタイルとはかけ離れた生活になってしまったそうです。そこからランサーズを始め、現在では理想のライフスタイルを追求しながら、フリーランスとして活躍されています。姫野さんに、フリーランスで幸せに仕事を続けていくコツや仕事で大切にしている考え方などについてお聞きしました。

家族との時間を大切にしたい。退職してフリーランスの道へ

ーーまず、過去の経歴について教えていただいても良いでしょうか?

大分の工業高等専門学校を卒業して、大分大学に編入したのち、地元のSier企業に就職をしました。その後、諸事情があって福岡のソフトウェア会社に転職しました。現在はフリーランスのエンジニアとして活動しています。

ーー具体的には、どういった仕事をされていますか?

システム制作、保守・運用の受託業務、ランサーズ経由で中小企業向けのVBAやGoogle App Scriptの構築、Webシステム制作の2本柱で活動しています。Webシステムでは、具体的に運送会社さんの経理システムの制作やトレーニングサイトの問い合わせに対するメール自動化などをしています。

ーーありがとうございます。次にフリーランスになったきっかけを教えてもらえますか?

前職のソフトウェア会社で、クライアントの都合で仕事が月に40時間だけになってしまったんですね。会社員の労働時間だと、残業がなければ1日8時間、だいたい月170時間くらいなので、130時間近く暇を持て余してしまったんですね。「暇だから良いじゃん」と思う人もいるかもしれませんが、僕は耐えられなくて。それに、ちょうどこの頃は1人目の子どもが生まれたばかりで、やることがないなら家に帰って家族と一緒に過ごしたいと思っていたんですね。

その状況が半年続いて、このままだとスキルアップできると思えないし、給料も上がらないと思って。何度も状況を変えて欲しいと会社に伝えたのですが、現状は変わりませんでした。このままなら、もう辞めるのが一番かなと思って。転職も考えましたが、フリーランスになったほうが仕事を選べると思って、2017年に独立しました。

ーーなぜ、そういう状況になってしまったんですか?

システム開発って、1ヶ月まるまるプロジェクトに入ることが多いんですね。だから、130時間分余っていたとしても、新しい仕事をもらいにくいんですね。

40時間だけの稼働なら休んでも問題ないのではと思うかもしれませんが、保守業務をしていたので、私が休むと社外に出ているメンバーを呼び戻さないといけなくて。よほどのことがない限り、休めない状況でした。

ーー独立する時に、家族を養う分だけ稼げるかなという不安はなかったですか。

不安はありましたが、前職で取引のあった会社の取締役の方が、僕が会社を辞める話を聞きつけて、「うちの仕事を手伝ってくれない?」と言ってくれて。だから、会社をやめたとしても仕事をもらえる保証がありました。また、妻も妻の家系もみんな自営業で、独立に反対されなかったことも大きかったです。

フリーランスエンジニアが案件を獲得するコツ

ーー独立してから、どのようにして仕事を獲得していったのでしょう?

取締役の人から、なかば契約社員のような形で月20万円ぐらいの仕事をもらっていました。会社の時より収入は少ないですが、在宅で仕事ができていたので良いかなと思っていました。

その後、任される仕事は増えていき、月の売上が50万円まで行ったのですが、家にいる時間が少なくなったんですね。これだと会社にいるときと変わらないなと。

そこで、ランサーズを使って収入を作ろうと思って、その取引先からもらっていた案件を9割近く減らしました。しかし、ランサーズを始めたばっかりだったので、初月の売上はゼロ、取引先からもらっていた保守運用の5万円だけという状況で……。エンジニアの案件って、応募してその月のうちに納品までいくのは、なかなかなくて。

さすがに、妻にも「月5万は勘弁してくれ」と言われて。結果、マルチワーカーのように30%〜50%ぐらいをクライアントワーク、残りをランサーズ経由の案件みたいなスタイルへとシフトしました。

ーー月5万円……。売上が低いと心が折れそうになりますよね。どのようにして、そこから仕事を増やしていったのでしょうか。

まず、派遣型の案件を紹介するサービスで、週3回くらい入るクライアントワークを探して、ベースとなる20〜30万円を稼ぎました。クライアントワークをしていたので収入は安定していましたが、ランサーズで実績を作るとなると、どうしても単価が1000円を切る案件をせざるをえなくて。今は想定外の作業も込みで見積もりを出しますが、最初のうちは依頼内容だけで見積もりを出していたので、作業を始めてみたら想定外の追加作業が発生して、まったく単価が足りない状態でした。徹夜するけど収入はさほど上がらないという悪循環になっていましたね。

なかなかランサーズの売上が上がらないので、ランサーズブートキャンプを受講しました。実はこのとき、ランサーズはライターのカテゴリで仕事をしていました。でも、なかなか伸びなくて……。エンジニアのほうでも応募してみようと思い、提案を続けていたら、たまたまカナダ大使館の案件が取れたんですね。

無事、その案件が終わって、担当者の方に「実績として出しても良いですか」と聞いたらOKをもらえました。カナダ大使の制作実績をプロフィールに掲載してから、徐々に獲得率が上がっていきました。

ーーカナダ大使館の案件がターニングポイントだったんですね。クラウドソーシングで案件を受注するうえで、工夫したことはありますか?

システムを発注する機会はそう多くないと思っていて、だから発注者の方はなにができるかイメージできないし、最後まで作ってくれるか不安があると思います。なので、実績を見てもらって信頼を示すのと、場合によっては簡単なサンプルを制作して、クライアントに完成イメージを伝えます。

また、受注するだけでなく、発注側に回って発注者の立場を理解するようにしています。発注をしてみて感じるのは、内容を理解しているエンジニアの方が安心できるってことですね。「この価格だと、〇〇が実装できない。だからこの価格は必要」と言ってくれたほうが、社内で予算を調整しやすいと思うんですよね。

ーーたしかに、発注をすると逆の立場を理解できますよね。反対に発注側として、これもったいないなぁと思う提案はありますか。

一番もったいないのは、書いてることは正しいけど、改行がされていなくて見にくい提案ですね。もし、提案数が多かったら、最初に弾かれるだろうなと感じてしまいますね。

あとは、まったく関係のない実績だけをアピールするのももったいないですね。発注側だと、「定型文を送っているんだろうな」と分かってしまいますから。

ーー”フリーランスは営業が命”だと言いますが、仕事を獲得するにあたって、大切にしていることはありますか?

今クライアントが求めていることを正確に把握し、真摯に対応することが大切かなと。とはいえ、エンジニアは規模が大きい分相談するけど発注しないクライアントがいるんですね。下手すると、1日資料まとめて仕事につながらなかったこともあるので、最初の段階で、案件化しそうなものには力を入れて、そうでないものには力入れないみたいに見極めが重要だと思います。

ーー案件を継続させるコツは?

相手が気軽に話せる環境を作ることですね。クライアントのなかには、ランサーズをあまり見ない方もいらっしゃるので、クライアントが慣れている手段でコミュニケーションすると、接触頻度も増えますよね。

また、納品してから1ヶ月間は簡単な仕様修正に対応しているのと、納品してから3ヶ月は無償で不具合をチェックしますと伝えているので、それが接触頻度の増加につながっているのかなと思います。

ーー価格交渉で工夫していることはありますか?

システム手数料や税がおさまるように提案していましたね。例えば、クライアントが2〜5万円で金額を設定している場合は、「5万円以内」みたいに。

ーーつまり、その価格の範囲でできることを提案するということでしょうか?

そうですね。赤字になりすぎないように提案していました。もちろん、実績があれば予算を超えて提案しても良いですが、実績がないうちは価格面で選んでもらうことも大切だと思います。

「クライアントの言うことを聞くだけ」が正義じゃない。

ーーエンジニアの方って、さまざまな業種のシステムを構築しますが、やはりさまざまな業界の知識や経験があったほうが有利なのでしょうか?

そうですね。業界独自の専門用語ってあるじゃないですか。例えば、経理関係のシステムを制作するのに、簿記がわからなければダメですし、ECサイトなら売掛けや買掛けの意味を知らないといけないので、最低限の業務知識は必要になりますよね。

また、これは仕事を獲得するテクニックでもあるのですが、その業界で頻用されている専門用語をあえて使うようにしています。そうすると、「この人は話がわかりそうだ」と思ってくれて、今まで話していなかった課題やニーズを知ることができます。

ーーたしかに、業界用語を使うとグッと信頼感が上がりますよね。仕事をするうえで大事にしていることは?

クライアント優先ですね。クライアントが実現したいことが違法ならNOと言いますし、無理な納期なら、「そんな納期ではできません」と断っています。その時にはっきりと発言しないと、他のエンジニアの人にも同じように接して、クライアントの評価が下がってしまいますよね。クライアントさんと一緒に成長できるようなスタンスで仕事をしています。

ーークライアント優先というのは、「クライアントの言うことを全部聞く」ではなくて、ダメなものダメ、良いものは良いってことですね。

そうですね。もちろん、「できないことはできない」と言うだけでなく、代替案を提示するようにしています。

ーー仕事を受ける基準はありますか?

価格面も含め、自分が楽しそうと思えるかどうかですね。値段に魅力がなくても、やってみたら面白そうだと思ったら受けています。逆に値段的が高くても、面白そうじゃなければ受けないこともありますね。

ーーときには、お金に目が眩んでしまうこともあるじゃないですか。そこは自分の感覚を信じているんですね。

例えば、月100万円もらってやりたくない仕事を1ヶ月したら、100万円以上にストレスが大きいと思うんです。会社員時代に40時間分しか仕事がなくて、でもどうしようもできない経験はもうしたくないんですね。その状況だと、家に帰っても不機嫌になってしまうし、家庭が良い雰囲気ではなくなるんですよね。それって妻と子供にも申し訳ないというか。だからもうお金を基準にするのはやめようと思っています。

ーー今後の展望についておしえてください、

去年の12月に過去最高の売上を更新しました。しかし、仕事量が多すぎて家庭が二の次になってしまっています。今年は家庭と仕事の両立をしたいです。まず、そのためには仕事の時間を1日8時間に抑える、最終目標としては1日5時間、土日完全休業にまでできれば良いですね。

また、稼働時間を抑えるためにも、チーム化を進めています。個人で受けていた案件をチームとして受けて、僕は営業や技術サポートや案件調整に回って、制作はチームメンバーにお願いしていこうと考えています。

けっして規模を大きくしたいわけではないのですが、フリーランスのチームが数百万円規模の案件を受注することって、とても夢があると思うんですよね。だからそこに向けてチャレンジしたいなと。その足がかりとして、新しい働き方LABで、エンジニア向けのキャンパスの設立やエンジニア向けブートキャンプを企画したいなと思っています。

ーー最後に、フリーランスや複業を考えている方へ、一言お願いします。

フリーランスは、会社員のように安定は保証されていないけど、働く時間、場所、種類の選択肢は広がります。最初は売上が少なくてきついですが、そこさえ乗り越えられれば、自分の好きな働き方を実現できます。駆け出し期を頑張って乗り越えてほしいと思います!