『「キラキラした人」を演じる必要はない』下方さんが語るフリーランスに必要なブランディング戦略とは?

2022年4月27日

ブランディングプロデューサー、クリエイティブ・ディレクター、DXディレクターなど、精力的に活動されている新しい働き方LAB和歌山コミュニティマネージャーである下方さん。今の形に至るまでには、どのような軌跡があったのでしょうか?

元バンドマン、営業力を身につけるために不動産で修行をするなど……紆余曲折のエピソードが次々と。下方さんが大切にする仕事観や本職であるブランディングについても伺うことができました。

■□■□ 下方聖司(シモカタセイジ)さんのプロフィール■□■□

「届かない辛さ」を「届く喜び」に変えるディレクターとしてブランディングとクリエイティブ、DXを中心に活躍中。クライアントは個人から上場企業まで幅広く、ゼネラリストとして様々なプロジェクトに携わる。最近は動画配信と映像制作の分野にも活動の幅を広げている。新しい働き方LAB和歌山コミュニティマネージャー

Twitter:@Kikaku_shitsu

バンドマンの夢破れる。インテリアショップの店員として第2の人生を歩む

ーーまずは自己紹介をお願いします。

新しい働き方LABの和歌山コミュニティマネージャーをしている下方聖司(シモカタセイジ)です。

普段は、企画・広報・ブランディング・デザイン業務などを請け負っています。特に中小企業は社内に企画室を持てないため、その部分をまるっと請け負いたいという想いから、「社外企画室」と銘打っています。

ーーでは、まず学生時代から今に至るまでのお話を聞いても良いですか。

小さい頃から、ピアノとエレクトーンを習っていましたが、好きな子に振り向いてもらいたい一心で、中学時代からベースやギターを始めました。

高校生の時にバンドを結成して、少しずつええ感じになってきて。

そこから大学受験を目指すのですが、自分が志望していた学部に受からず、別の学部に入学することになってしまいました。ただ、どうしても授業の内容に興味を持てなくて……。

そんな感じで、将来に悩んでいた時に、たまたまアメ村で古着屋さんのアルバイト募集を目にしました。当時からファッションが好きだったので、早速、応募をして古着屋で働くことになりました。最終的には、大学を中退して、古着屋で働きながらバンド活動をする生活がスタートしました。

ーーバンド活動は順調だったんですか?

順調でした。古着屋で働きつつ、ライブしながら全国を回っていました。しかし、無理がたたって21歳のときに過労で倒れてしまいました。

ーーそりゃそれだけ動いたら過労になりますよね……。

それがきっかけで、古着屋もバンドも辞めることにしました。いろいろなことが嫌になって何もしたくなかったのですが、このままではマズイと思い、あらためて自分のやりたいことを考えました。

そこで出てきたのが、映画監督とインテリアデザイナーでした。もともと、映画やアニメーションを観るのが好きで、作る仕事に興味があったんですね。

しかし、映画監督は現実的になるのは厳しいと考えて、インテリアの道ならできるかもしれないとインテリアショップのアルバイトから始めることにしました。

ーーインテリアショップで働き始めてからは、どのようにキャリアを積んでいったのでしょう?

インテリアショップにアルバイト入社し、その後社員になって店長、マネージャーと、トントン拍子に進んでいきました。

その会社は、店長やマネージャーがもつ裁量が大きく、予算配分や商品の売り方も任されていました。その時にブランディングや経営について学ぶことができました。

独立した理由は、「自分の名前で仕事をしたかったから」

ーー独立をしようと思ったきっかけは?

実はバンド時代から、趣味でIllustratorを使ってフライヤーを作っていたんですね。作品展をしたり、公募展に応募したり、クリエイティブな活動をしていました。

しかし、インテリアショップ時代に大分へ異動になって、一緒にクリエイティブな活動をする仲間がいなくなってしまいました。引き続き何かクリエイティブなことをしたいと、写真撮影を始めました。

活動を続けるうちに、少しずつ写真撮影の仕事が増えて、当時一緒に創作活動をしていたメンバーに触発されて、独立を決意しました。

ーー最初は、カメラマンとして独立されたんですね!

そうなんです。ただ、自分の営業力のなさを痛感してしまって。営業力を高めるために不動産販売の営業の仕事を始めました。

最初の半年ぐらいは鳴かず飛ばずで。ただ、会社の営業研修などで学んだノウハウを実践し、少しずつ売上が伸びていきました。しかし、ちょうどこのタイミングで離婚など色々と重なり、自律神経失調症になってしまいました。

ーー人生波乱ですね……。

元々、独立するつもりで貯金していたので、転機だったのかなと。独立しようと思っていた矢先に、大阪にある有名なインテリアショップからお声がけをいただき、そこで1年間、店舗運営やブランディングの支援を行いました。

そのあと、和歌山にある住宅会社のイノベーション部門の立ち上げや、広告代理店などの経験を経て、33歳で独立しました。

ーーこのタイミングで独立しようと思った決め手はなんだったのでしょうか?

マイペースにやりたかったからですね。組織に属していると、最後の決断のボタンを押せないじゃないですか。あとは、自分の名前で仕事をしたくなったのも大きいです。

インテリアショップ時代の上司に言われた「仕事で何を言われても、社会にいる自分が言われてるだけやから、家帰ったら気にする必要ないやん」という言葉を大切にしていたのですが、それを大事にしすぎたからこそ、仕事の自分とプライベートの自分が乖離してしまって。それが嫌だったんですよね。

ーー今までのお話を聞いていると、もちろん大変なこともあったと思いますが、トントン拍子にキャリアを積まれた印象があります。

いっぱい失敗しましたよ。

うまくいかなかったこともあるし、めちゃくちゃ怒られたこともあるんですけど、全部ひっくるめて「今の自分」と受け入れているので、ちゃんと進んでいるとポジティブに受け止められていますね。

ーーちなみに、新しい働き方LABにはどのタイミングで加入したのでしょう?

独立2年目に、和歌山のフリーランス2人と一緒に、月100万稼ぐフリーランスを100人作ることをコンセプトとするコミュニティ「R100」を作ったんですね。

そこで初めて売上を意識しだして、地元の勉強会や商工会に顔を出して、デザインや写真の仕事を増やしていきました。

ある程度、売上が安定してきた頃に、R100のメンバーが新しい働き方LABが載っている記事を持ってきたんですね。見てみたら、「あれ、知ってる会社や」と。そこで問い合わせて対応してくれたのが、新しい働き方LAB所長の市川さんで。すっかり意気投合をして、新しい働き方LABへの加入を決めました。

最初から、完ぺきなブランディングを考えなくて良い。”ときめく”ものに挑戦しよう

ーー独立して、売上を作るまでに大変だったこと・苦労したことはありますか。

ありがたいことに、独立するタイミングでインテリアショップの運営の話をいただいたので、あまり大変さは感じなかったです。また、実家で母と2人暮らしなので、最初から食べていけていましたね。何より貯金を作っていたのは大きかったかもしれません。

ーー仕事を増やすところで苦労はなかったということでしょうか?

そこに関しては、人より苦労してないんですよ。「営業を営業」と思っていないし、むしろ営業が楽しいと思っているからですね。

例えば、フリーランスのコミュニティの中で仕事を獲得するなら、周りの人が自分がしていること、強みを知ってくれれば、何かの折に頭に浮かんだら依頼してくれると思うんですよ。

でもそこに行くまでには発信するのが怖いというハードルがあるんですね。ハードルを上げているのは自分なので、シンプルに下げちゃえば良いと思います。何か言われたらヘコめば良いし、反省すれば良いし。

ーー伝え方を間違えると、うさん臭くなることもありますよね。何かコツはありますか?

単純な話で、チャンスがあったら手を挙げることに尽きると思います。これに関しては、ブランディング以前の問題で誰でもできるんですよ。

ブランディングが失敗する原因って、自分じゃない何者かになろうとすることなんですよね。自分をよく見せようとしすぎるからうさん臭くなるんです。

「キラキラした人」を演じる必要はなくて、自分が楽しいこと、やりたいことをやって、それがキラキラしているかどうかは見た人が決めてくれれば良いんですね。

ーーなぜ、楽しいことを発信することが重要なのでしょう。

例えば、お金のために動画編集をしている人と、動画編集が楽しくて仕方がない人だと、やはり後者の方が断然伸び方が違うんですね。

好きでやり続けられる人は、苦痛じゃないからいつまでもできるんです。だから、スキルが上がるスピードが全然違うんですよ。

ーーなるほど。楽しいけど売上に直結してない場合は、そもそも情熱が足りないと考えるべきなのでしょうか。

売上と発信は別の問題ですね。売上が伸びていないのは、アピールする層を間違っている可能性があります。「おもしろいと思ってくれるのはどんな人だろう」という部分をもう1回考えるべきですね。

ーーチャレンジすることが本当に楽しいのかどうかは未知数じゃないですか。これからチャレンジをする人の場合は、どのようにブランディングを考えていけば良いでしょう。

「独立したら、ブランディングを考えなければいけない」は大きな誤解で。最初は、自分が好きなものやときめくものに挑戦すれば良いんです。

そのあとブランディングを考えれば良い。だって何が楽しいかわからへんかったら、そのブランディングが正解か間違いかもわかんないわけじゃないですか。

仕事を得るためのアピールポイントの整理は、ブランディングとは違います。

ブランディングは、自分の強みが「誰にどう届けば」、「どんな感情」を与えることができて、結果「どういう仕事」につながって、「クライアントにどんな価値を与えられるか」を考えて実行することなので。

ーーそれを正確にできている人はいないですよね。逆に言うと、強みの整理をしたほうが、仕事が入ってくる可能性が高いということですよね。

それは間違いないと思います。転職の時「前職は何をしていましたか?」「そこでどんな仕事してましたか?」と聞かれるのと一緒です。それをブランディングと思っても良い。でもそこで無理に完成させようと思わないほうが良いです。何もない状態で背負ったそのブランディングを抱えて沈む必要はないし、少し柔軟に構えていたほうが、思いもしない方向に進む可能性があると思います。

営業が苦手なら誰かに任せよう。でも、作品への情熱や想いは発信した方が良い

ーー特に、クリエイティブ職の方々は「もの作りは好きだけど、ビジネスはよくわかんない」方も少なくないと思っています。もっと気軽に営業をするには何が必要だと思いますか?

必要ないかな(笑)今の時代、分業してしまえば良いので。本当に良いものを作っているなら、それをビジネスの世界の人にしっかりと伝えていきましょう。

特に「何を大切にしているか」について教えてほしいです。どういう想いで作品を作ったのか、その過程や苦悩が見えると、その作品の深みが増すし、その人の思考や哲学がわかって頼みたくなりますね。

ーー駆け出しの人たちは、ある程度ビジネスを楽しむ観点があったほうが良いんでしょうか。

どうなんでしょう、向き不向きもあるんで難しいですね……。でも好きなことをやり通したい人は、全力でやり通せば良いと思っているんですよ。「自分のクリエイティブを世に届けたいんだ、それをお金に換えたい」という感情はすごく素晴らしいことだと思うから。でも、お金を稼ぐ観点で言えば、ビジネスを理解する方が結果的に早いケースが多いですよね。

ーー独立当初、しもかたさんはSNSを運用していましたか?

その時はInstagramだけでした。でも趣味のアカウントなので、ほぼインターネット上に情報を出さずにやってました。その代わり、僕は自己PRをまとめた紙を会う人全員に配っていました。しかも「もし、頼むことがなければ、こんなことに困っている知人にこの紙を渡してください」と伝えて、3枚ずつ配っていました。

「関わる人すべてが幸せである」ことを大切に

ーー仕事で大切にしている価値観や哲学はありますか?

「関わる人すべてが幸せである」ことをモットーに仕事をしています。ただ、その想いが強すぎるからこそ、アウトプットのクオリティに妥協できずに、ときにチームメンバーに厳しくなってしまうので、そこは反省せなあかんなと思っています。

ーーアウトプットに妥協できない?

妥協できない……妥協しないですね。もらってるお金が1円だろうが100万円だろうが変わらないですね。

ーー大切にしてることと反対に、絶対にしないこと、こういう仕事は受けないみたいな基準はあるんですか。

楽しいと思った仕事しか受けないです。ただお世話になっている人に頼まれてどうしても断れない場合は、1日1時間までしかしないと決めています。

ーー100%楽しいことってないですよね。ただ、「楽しいことをやろう」だと、混じりっ気のない楽しさと勘違いされる恐れはありますよね。やっぱり、そこは常に楽しく感じる幅を広げないといけないってことですよね。

それは、そうだと思いますね。楽しいと思えることを増やすほうが大事です。

ーー大変なことも楽しもうみたいな。

大変なことを悲観せずに、それをどうにかするスタンスですね。あと楽しくないときは「楽しくない」と正直に言っちゃいます。本当に追い詰められて楽しい人なんかいるわけないので(笑)。

ーー発想の転換ですね。

そうですね。うまくいかないこと、奥が深いことは楽しいじゃないですか。簡単なゲームをクリアして終わるんじゃなくて、いかにして難しいゲームをクリアできるかを考えるほうが楽しいのと同じで。

例えば、ライターなら「自分の言葉を誰かに届ける」ことが楽しいのか、「誰かの言葉を届けやすくする」ことが楽しいのか、それとも「売上を増やす」ことが楽しいのか、「パソコンのキーボードを叩き続ける」ことが楽しいのか。いろいろありますよね。「楽しい」にフォーカスし直すと、別の仕事が見えてくるかもしれません。

ーー今後の展望をお聞きしても良いですか。

2021年9月にオープンした地方企業向けのオンライン配信とオンラインイベントのサービス「Livelooks」を中心に、地方企業の利益改善やプロモーションにもっと関わっていきたいです。

これからの時代、オンライン消費もオフラインと同じように「これが欲しい」というモノ消費から、「こういうことを体験したいからこれを買う」というコト消費に変わると思っています。

ですけど、中小企業ってライブコマースの手法を知らなかったり、その環境を持っていなかったりするんですね。なので、このスタジオに来てもらって、一緒にその人や商品の魅力を話し合い、配信方法を考えて作っていきたいです。

最終的には、地方企業の売上アップのサポートや、業績改善に活用されるサービスになると良いですね。

ーー最後に読者にメッセージをお願いします。

僕が今のように、いろんなことや人と関わりながら仕事ができているのは、紛れもなく新しい働き方LABのおかげです。もちろん一人でも楽しいですが、コミュニティに加入すると見える世界が広がります。フリーランスで、キャリアや仕事の増やし方で悩んでいる方は、新しい働き方LABに限らず、コミュニティに加入することをおすすめしたいですね。