「あえて派遣社員を選ぶ」マルチワーカーやぎちゃんの自分を大切にする働き方

2020年8月11日

「自分に合った働き方が分からない」
「私はどんな仕事がしたいんだろう」

大人になればなるほど、自分の働き方や生き方に迷ってしまいがち。一歩踏み出せなくて悩んでいる人は多いのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、新しい働き方LAB・静岡キャンパスコミュニティマネージャーのやぎちゃん。アパレル会社での管理職を経て、現在はマルチワーカーとして派遣社員×副業という働き方をしています。

「“あえて”派遣社員を選んでいる」という彼女。どうしてやぎちゃんは派遣社員という働き方を選んだのでしょうか?きっかけから、自分に合った雇用形態を探すヒントについて伺いました。

【やぎちゃん プロフィール】

派遣社員×フリーランスという異色なマルチワーカー。アパレル会社でアルバイトから管理職までを経験、もっと自分のための自由な時間と自由な生き方がしたいと思い退職へ。昼はOL、土日と空き時間は主にWebライターとして活動中。新しい働き方LAB静岡キャンパスコミュニティマネージャー。根っからの関西人で楽しい事好き。 Twitter:@Yagichan8935

「大学へ行く」「就職する」というイメージがわかなかった学生時代

ーー最初に、高校を卒業してからやぎちゃんが選んだ進路について教えてください。

私は高校を卒業してからオーストラリアのシドニーへ3年間留学をしていました。

一般的に、高校を卒業したら「大学へ行く」「就活をする」という流れが多いですが、私は特に行きたい学校もなく、ましてや自分が社会人になるイメージが全く想像できなかったんですね。

リクルートスーツを着て面接へ行く、何社も落ちる…という精神的ダメージをみんなが乗り越えているのが、純粋に「すごい」「私にはできない」と感じていました。

進路に悩んでいた頃、ちょうど姉がオーストラリアへ滞在していたので、春休みに1週間遊びに行ったんです。その後帰国して改めて進路を考えたときに、興味のあった美容の専門学校へ行こうかなと思いつつも、果たしてそれを仕事にしたいかといえば漠然としていて…。

親戚一同がみんな海外留学経験者だったので、「だったら私も海外へ行ってみようかな」と思い、卒業してからはシドニーへの留学を決意しました。

2007年4月に出発し、2010年7月に帰国。滞在中は専門学校で美容について学んでいました。帰ってきてからは、人とコミュニケーションをとるのが好きだったので、サービス業を中心に、3年間アルバイトをしていました。飲食店やバーなどで働いていましたね。

ーー帰国後、企業に就職して正社員として働いてみようとは思わなかったんですか?

留学中のビザの関係で専門学校へは通っていたんですけど、日本の学歴でいえば私は高卒なんですね。

そのため、求人の応募条件から1つ目の項目で落とされてしまうことが多いんです。海外の専門学校を卒業したとしても、企業の面接官には伝わりにくい。仮に高卒でも可能な求人の場合、最低賃金からのスタートや、雇用形態がパートやアルバイトから始まる仕事が多い。だったら、焦らず正社員へのチャンスがある求人を探していこうと思いました。

しばらくアルバイトを続けた後、夜にバーテンダーの仕事をしながら日中で掛け持ちできる仕事を探していました。

ちょうどそのときに、私の地元の神戸でアパレルショップのオープニングスタッフを募集していたんです。その会社では、アルバイトから始めて正社員になれるチャンスがあったので応募したところ、見事採用され仕事がスタートしました。

管理職の経験をきっかけに、働き方を見直した

ーーアパレルではどのようなお仕事をされていたんですか?

アパレル会社では3年間勤務をしました。ファッションのキラキラした部分に昔から憧れがあったので楽しかったです。

アルバイトとして採用された後、ありがたいことに順調にバイトリーダーになり、契約社員を経て、正式に正社員になりました。その後、中間管理職として指名していただき、店舗の在庫や売り上げの管理、スタッフのマネージメントなどを行っていましたね。

ですが、管理職になってから経験を積むにつれて仕事が楽しいと感じられなくなったんです…。

ーーなぜでしょうか?

私が正式に管理職になって半年ほど経過したときに別店舗へ異動になりました。神戸から大阪のフラッグシップ(旗艦店)で、メンズのトップマネージャーに

異動当初はキャリアにもなるのでとても嬉しかったしワクワクしました。売り上げや在庫の管理、スタッフとのコミュニケーションについて深く学べた反面、やはりプレッシャーが大きかったんです。

売り上げが前年度比を超えられていないと、エリアマネージャーにめちゃくちゃ怒られるんですよね。「なんで売れていないの?」と、言葉をかけられるたびに心がつらくなってしまいました。他にも人件費の削減や売れていない原因の追及が頻繁に重なり、スタッフや他のマネージャーとのコミュニケーションが不足してしまうなど、常に悩みを抱えていました。

もちろん、小売店は売り上げのことやスタッフのことを考えるのは当たり前。ですが私は次第にプレッシャーに耐えられなくなり、気がついたときには体調を崩してしまうようになっていたんです

昔からポジティブな人間なのに、当時はネガティブなことばかり考えるように。

鬱にはなりませんでしたが、昼夜逆転の生活が続いたこともあって「楽しい」とは全く思えなくなりました。

ーー「このままじゃいけない」と行動に移そうと思ったきっかけはありましたか?

朝が起きられなくなり、遅刻が増えたことですね。あとはスタッフに対してイライラしてしまう機会が増えたこと。

「こんな状態で私は人の上には立ってはいけない」と感じた瞬間にハッとしましたね。

もし仮に今を耐えて、いつか私がエリアマネージャーになった場合、今の私自身が「なんで売れないの?」と追い込まれてとてもツラいのに、将来全く同じことを現場のスタッフにしてしまうのではと感じました。

その時に「これではまずい」と思って、転職しようと決意しました。

ーー退職するときに迷いや不安はありませんでしたか?

「辞めてもなんとかなる!」という気持ちのほうが強くて迷いはありませんでした。まずは体調と精神を整えないといけないと考えましたね。

もちろん、退職を考えたときにお金の不安は誰にだって頭に浮かびます。でも私はお金よりも気持ちの優先をしました。

お金は自分が健康だったらいくらでも稼げます。どれだけ賃金が低くても稼ぐための行動はできますよね。

ですが、体調を崩して自分が働けなくなってしまったら、一切お金は入ってきません。「辞めた後はどうしよう…」と悲観的になりすぎず、何かあったら実家に帰るとか、アルバイトで繋ごうとか、ポジティブに考えようとしていましたね。

憧れていた生活ができる。「派遣社員」を選んだ理由

ーー新しい仕事を探すときには、どんなことを考えましたか?

定時に仕事が終わる、土日祝が休みという、自分の時間がきちんと確保できる雇用形態で働きたいなと考えていました。

私は今までのアルバイトを含めて全てサービス業で働いていたので、基本的にシフト制での勤務ばかりでした。

だから、興味があるイベントがあっても休みが合わずに参加できないなど、自分の時間をなかなか持てなかったことも悩みのひとつでした。

イベントや楽しいことって基本的に土日で行われますよね。サービス業は世間の人たちが休むときに売り時なのでシフトから外れることはできず、イベントにもなかなか参加ができませんでした。ましてや2連休もほとんどなく、休みのときでも電話が鳴っている状態。

「自分の時間を楽しむ」という感覚がなく、自由な時間を楽しむ働き方にずっと憧れていたので今度はそういう仕事にチャレンジできたらと思いました。

ーー正社員として別の企業で働こうとは思わなかったんでしょうか?

はい。正社員という雇用形態は、アパレル時代の経験で疲れてしまったので、一旦別の働き方を探しました。

責任のある仕事って前向きになる1つのきっかけではありますが、それがいいことでもあれば、悪いことに繋がるケースもあります。

私はその悪い面を受けて退職したので、「もう一度同じ雇用形態で働く?」と考えたときに、そもそも学歴が高卒なこともあり、また一から正社員を探す意味ってなんだろうと疑問に思いました。

そこでまず、働き方を知ろうと思って「雇用形態」と入力してネットで調べたんです。検索して初めて「派遣社員」という雇用形態を知りました。

派遣と聞くと契約期間に上限があるなど、不安に感じてしまう人も多いと思いますが、実は私は当時、派遣という働き方についての知識が少なく、そこまで不安がなかったんですよね(笑)

とにかく魅力に感じたのが、定時で上がれることと、暦通りにお休みがあること。「私が憧れていた、一般的な“普通の生活”ができるんだ!」というイメージでした。

今までサービス業でしか働いたことがない私が、オフィスで事務仕事を初めての雇用形態でやる。チャレンジを決めた当時は不安3割、残りの7割は楽しみの方が大きかったですね!現在派遣社員として働き始めて2年半ほどです。

ーー実際に派遣社員として働いてみての感想、変化はありますか?

快適で幸せですね!残業もほぼなく、定時になったら家に帰ったり、友達と飲みに行ったり。自分の時間がしっかり保てていると感じます。毎日ポジティブでいられることと、体調も良くなったので働き方を変えてよかったと実感しています。

また、派遣という仕事に慣れて自分の時間が余ってきたので、昨年(2019年)からは新しい人との繋がりを増やしていきたいなと思い、副業ライターにもチャレンジしています。

ライティング案件を中心に受けており、副業によってより本業とのバランスも取れるようになりました。新しい働き方LABに入るきっかけにもなったので、ぐんぐん視野が広がっています。「働き方」という固定概念が変わってきていますね。

ただもちろん、派遣という雇用形態で悩んでいる人も多いので、これが当たり前ではありません。

私はありがたいことに、所属している会社が派遣社員をきちんと人材として、正社員の方々と対等に扱ってくださいます。なので楽しく勤務させてもらっているなと感じます。

自分に合う働き方や仕事を探すには、“入り口”を下げてみよう

ーー自分に合う雇用形態や職業の探し方で悩んでしまう人は多いです。そういった人はどういう部分を意識したらいいと思いますか?

仕事を探すときに、最初から「バリバリ活躍したい!」「この資格を活かしたい!」と思うと一気にハードルが上がります。

実際に入社してみて自分の力が開花すればラッキーですが、「思っていたことと違う」と感じたり、実は他のスキルのほうが大切だったりしますよね。

なので、まずは仕事を探すときの入り口のハードルを下げること

私の場合、「今まで接客業でアルバイトをしていたから、人とのコミュニケーションは好きだ」という部分を入り口にもってきていたので、アパレル時代に管理職まで上がれたのだと思います。

「持っているスキルを全部活かす」「トップになる」という風に考えるのではなく、まずは「これが好き」「自分の時間がほしいな」「定時で帰りたいな」と、考え方を下げると見つけやすいかもしれません。

あとは「どんな生活が理想?」「あなたが優先したいことは何?」という視点も考えてみてほしいです。

嫌だと悩んでいても、実際は何が不満なのかを見えていない人もいると思います。なので、自分のモヤモヤや理想を細かく分解してみること。そこから雇用形態や職業が考えられるかもしれません。

ーーありがとうございます。最後に、やぎちゃんのこれからの目標と読者に向けてメッセージをお願いします。

できれば、今の本業と副業を掛け持ちする働き方を続けたいです。

一時期、「副業一本でやってみよう」と思ったこともありましたが、今の私の働き方や生き方はある意味珍しいと思うので、この両立を続けた先に同じような働き方をする人が増えたらいいなと思います。そして本業と副業とのバランスをうまく取りつつ、いろんな人と出会っていきたいですね。

今は漠然としていますが、ゆくゆくは「頼りにしてもらえるような人」にもなりたいです。

人を支える縁の下の力持ちポジションが得意なので、いい意味で自分が誰かの踏み台になって、背中を押すきっかけになれたら嬉しいです。

働き方や生き方に悩んだとき、ついネガティブになってしまいますよね。「あれもしんどい、これもしんどい」と、どんどんネガティブのループへ陥ります。

そんなとき、すぐにループを断ち切るのは難しいので、ネガティブの一個先に自分の好きなことを設定してみてください

「恋人に会おう」「美味しいものを食べよう」「欲しかったものを買おう」など、ポジティブな要素を入れてみる。そうすると少しだけ気持ちが楽になれるんですよね。

それでも前向きになれない、ポジティブになれないのなら「辞めること」を選択肢に入れていいと思います。

立ち止まって考えてみる、私のように雇用形態で調べてみるのもおすすめです。意外とちょっとした情報収集や誰かの些細な言葉で、きっかけが掴めるかもしれません

ライタープロフィール

取材・文:田中さやか
テレビ番組制作会社の勤務を経てフリーライターに。取材やインタビューを中心に活動中。noteを毎日更新しています。Twitter:@natvco note:https://note.com/sayakatanaka